母親

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「あなたに運んでほしい物はこれなの」 女は肩から下げていたバッグの中から、金色の小さなロケットを取り出した。 「そう言えば自己紹介が遅れたわね、真島さん。私は小出 陽子。で、荷物を届けてほしい相手は斉藤 幸子。私の母親だった人よ」 「だった人?」 思わず聞き返す。 「ええ、今では母親だなんて思っていないわ。あの人が私達を捨てたのよ」 陽子は軽く下唇を噛みうつむいた。 少しの間の後、勢い良く顔を上げた。しかし視線は窓の外へ向けられた。 「私の両親は、私と兄が幼い頃に離婚したの。何も珍しい話じゃないでしょ?そして私達を育てくれた父が最近亡くなったの」 陽子は心を落ち着かせるためにゆっくりとコーヒーを口に含む。 カチャリ。 静かにカップをソーサーに置き真島に向き直る。 「その父が死ぬ少し前、自分が死んだらそのロケットを母親に届けてほしい、と頼んできたの」 陽子はまた外に視線を移しながら続ける。 「そのロケット、フタを開けると写真が入っているの。まだ母親が私達の家族だった頃の四人の写真よ」
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