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少し気まずい沈黙が流れた。僕はともかく彼女、椎名さんのショックは計り知れないだろう。
「あ、あの…」
沈黙を最初に破ったのは椎名さんだった。少し頬を赤らめながらこちらに尋ねてきた。
「何か…私に用があるのでは?」
そりゃそうだ。下着姿だけ見て「はい、さよなら」ではただの変態である。
「あ、えっと…僕、隣に引っ越してきた上原優凪っていいます。よろしくお願いします」
そう言って軽く頭を下げた。挨拶としては普通な感じである。しかし椎名さんはきょとんと不思議そうにこちらを見てきた。
「あの…?」
「あ、ご、ごめんなさい。そっか…普通は挨拶するもんよね」
椎名さんは実に不思議な事を言ってくる。引っ越しの挨拶は当たり前だろう。
「あぁ、そっか…今日の買い出しって君の歓迎会があるからか。うん、おかしいと思うけどここじゃそんな引っ越しの挨拶とかしなくても全然大丈夫だから」
またこのアパートの変なとこが見えた気がする。そもそも僕の歓迎会って…? 考え事をしていると笠原さんの部屋の扉が開いて、中から笠原さんが出てきた。
「あ、美嬉ちゃん、もう支度できたの?」
「うん、そこのスーパーまでだからジャージでいいかなって」
椎名さんがジャージなのは急いで着替えさせるような状況にしてしまった僕に原因があるような気がするが…さすがにその話をする程僕もバカじゃない。
「よろしかったら上原さんも一緒に行きますか?」
笠原さんの笑顔の提案に言葉を返したのは椎名さんだった。
「ちょっと、ちょっと。歓迎会の主役を買い出しに突き合わせるって…なかなか聞かない話じゃない?」
「でも、上原さんにスーパーとかそういう場所を案内できる良い機会だし」
「うん…まぁ、それはそうだろうけど…」
「僕は別に構いませんよ。荷物持ちくらいはできますし」
あまり力は強い方ではないものの、それでも僕だって一応男である。
「それじゃ私、竹井さんからお金もらってきますね」
そう言うと笠原さんは管理人室の方へと小走りで向かっていった。
「…あの…」
竹井さんがお金を出してくれるのか…と考えていると椎名さんが小さな声をかけてきた。
「さっきの…誰にも言わないでね」
椎名さんははにかみながら言ってきた。
「ん…まぁ…僕の方からもとても話せたもんじゃないけど…」
僕もはにかみながらそう答えた。
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