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一つは、なるべく左側に寄って歩く事、もう一つは右側をあまり懐中電灯で照らさない事である。
意味が良くわからなかったがBは基本的に必要で重要な事しか言わない人間だし、こんな奇怪な洞窟の中だから俺はBの指示に全面的に従った。(少し悔しかったが)
やっとの事で赤い光(なぜ赤い光なのか最初わからなかった)が漏れてくる所までくると、Bは右側を懐中電灯で照らした。
そして、傍らの小石を足で蹴飛ばした。
石は、下の方に落ちて行ったが、落ちる音は聞こえなかった。
俺は、何かあるなと思っていたが、ぞっとして背筋が寒くなった。
Bは、こんな状況だとでも言うよう両手を拡げておどけて見せた。
俺はBの指示に従って良かったと感謝したが、一方で何故はっきり右側が崖になってると説明してくれないのか不満が残った。
Bは少し気取ったところがあり、その態度をキザと嫌う奴もいる。
初めてE美を紹介する時に奴は俺に、こう言った。
「お前に俺の有力なパトロンを紹介する」
後でE美に聞いたら、ここへくる時に、奴が細かい金をもってなかったのでジュース代を立て替えたと言うだけの話だった。
もっともこう言ったBの態度を余裕があるとか、ハイセンスだとか評価する人間も、いるから世の中わからない。
俺達は、やっと月の灯りを見る事が出来た。
そこで俺達を迎えてくれた風景は他では、ちょっと見られないような変わった物だった。
俺達の出た森の中は松明で明るく照らされてた。
まるで、こっちへ来いとでも、言うように松明が向かいあって間を照らしていた。
「山狩りかなんか、やってんのか?」
「さあな、まさか俺達の迎え火か?」
「縁起でもない
俺達は生きてるぞ」
「それは冗談だが、この間は通路に、なってるんだろう
秀吉の大返し(本能寺の変を知った秀吉は毛利領から昼夜走り播磨〈兵庫〉まで駆け抜けた)みたいに。
俺達の為に炎の通路を作ってくれたのかもな
」
「げっ、ここは、夜客が来る度に、こんな事してんのか?
第一山火事になる恐れないのかよ」
Bは、その質問には答えず松明の間を歩き出した。
俺も仕方なく、その後を追った。
松明の通路は、案の定寺院の裏手に続いていた。
その寺院の裏は、俺達が今まで見て来たものとは、大きく異なっていた。
その大きな塀は刑務所のそれより、あきらかに、そびえ立っていた。
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