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くだらない競技だが、能力の優劣が出る競技である。
だから緊張感は全然ちがうが、一方で夢中に、なり方も全然ちがう。
俺は勝負の間は、モヤモヤした気持を忘れられるかもしれないと思った。
まず、ジャンケンだ。
ようするに、これで順番、(といっても順繰りにくるわけじゃないが)を決める。
「ジャンケン」
「ほい」
「おれが勝った」
「お前後だし、まあいいわやれ」
俺はBの額に向かって、人差し指を向けた。
「あっちむいて」
「ちょっとまて、」
「おじけづいたか?」
「そうじゃなくて何回勝負にする?
一回か」
「そうだな5回でどうだ」
「一回だと運に左右されるし、3回だと不満がのこる
それで行こう」
やり直し最初の一回目
おれが勝った。
「あっちむいて
ホイ、」
見事に捌かれてしまった。
次は俺が負けた。
「あっち向いて」
奴はいきなりジョーを仕留めた力石のように腕を下げて上へ繰り出した。
俺は一瞬顔を下に向けそうに、なったが目だけで下を見て奴が人差し指を伸ばすのに応じるようにスウェイバックして空を見上げた。
俺達は、そのポーズでしばらく動かなかった。
やがて思い出したように仕切り直しをした。
それから何回かやってるうちに、奴が2回かち俺も2回勝った。
というと綺麗に分けたような気がするが奴が2回先行して買ったため、俺の焦りは、酷い物だった。必死に2回返した。
2回目を返した時の壮絶なラリーはあっちむいてほい史上類を見ないものだった。(と俺達だけ思っている)
ウィンブルドンの決勝じゃないが、決してお互い相手に隙をあたえず、全身をアンテナのようにして、相手の動きを追った。
石にしがみつくようにして、なんとか俺がポイントした時は二人とも虚脱感さえ感じていた。
「少し休むか」
「そうだな、いや、あんまり時間をかけてるとヒスをおこしたE美が車に放火するかもしれん」
「そこまでないだろうがタイヤ全部パンクさせるかもしれんな
しかし、それでも少しやすもう
つかれた」
「そうだな
休むか」
精神の緊張の連続にほとほと二人ともこたえていた。
Bが話掛けて来た。
「なあ俺達なんで、こんなにむきに、なってるんだ
考えてみれば、くだらん事だよな」
「確かにな、しかしくだらない事でも一度勝負がはじまったらまけられなくなる
誰でもそうじゃねえか」
「ギャンブラーの真理か」
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