宿命

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「だから、それはやめようと」 「もう、俺達、クワガタとカブトの束縛から離れてもいいんじゃねえか おれはお前を叩きのめしたいと言う気持がなぜか、ぜんぜんおこらない」 奴に言われて俺も気がついた。 不思議にも敵意が、起こらなかった。 だが一方で奴と戦いたいと言う気持が強く残った。 戦いの目的が勝利じゃないのにケンカしたい へんな高揚感が、あった。 その気持が澄んで穏やかだった。 明鏡止水とは、この事だろうか? 「結局そうゆう事になるのか?」 「原点に戻ったんだ、俺達の」 「ライバル?」 「弱肉強食」 「肉食系は俺だな」 「さあ、どっちかな」 俺達は素早く距離を取った。 「おんな、がじれてるぞ」 「あんな女ほっとけ あの程度の女はいて捨てる程いる」 「本音じゃねえな」 「おたがいにな」 奴はジャブを繰り出した。 俺は左右に避けながら奴と平行に走った。 お互い激情が起きないため、冷静に戦闘が、始まった。 これでは、さっきの、あっち向いてほいの方がなまなましいくらいだ。 奴は素早く俺の前に回ろうとしたため、返って無防備な背中を俺の前に、さらした。 後ろから背骨あたりに蹴りを入れれば、かなりダメージを与えられる。 しかし、俺は、それをしなかった。 なぜなら俺の目的は、こいつに勝つ事ではなく、こいつとケンカする事だからだ。 俺は背後から奴を羽交い締めした。 だが瞬間奴はすっと体を下に落とした。 奴に抜けられた上にバランスを失った俺は前のめりに、ぶっ飛んだ。 そして奴に裏を取られてしまった。 完璧にまずいポジションだ。 はずすのは、かなり困難だ。 格闘ショーでは、これをはずすが、だからショーと言われてしまうのだ。 バックをとられたら、まず勝目は薄い、とられた方はギブアップまで踏ん張るぐらいしか出来ない。 もし、隙があるとすれば相手がバランスをくずした時だけだ だからバランスを崩す格闘技である柔道の達人はバックを取られる事を恐れない 柔道は相手にバックを晒す事を前提にした異端の格闘技なのだ。 柔道は打撃に勝てないと言うか打撃系は柔道家相手に腰の入ったパンチは打てない あたればいいが、空振りするとバランスを崩し、そのまま腕を決められてしまうからだ。 あらゆる格闘技の中で柔道ほど一瞬で決まるものはない。 もっとも柔道は柔術を改良したもので競技を
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