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奴はある方向を指さしていた。
俺はその方向を見た
女のか細い腕が血にまみれて虚空をつかんでいた。
給水塔の下敷きになった女の身体は死ぬ寸前の昆虫のようにピクピク痙攣していた。
周りは血の海だったにもかかわらず女の身体からは、まだ血が飛び散っていた。
『こんなバカな
なんで』
俺は頭の中が真っ白くなりそうなのを必死におさえた。
Bの方は廃人のようになっていた
この立場じゃ無理もない
俺だけは
そう思って俺は自分を元気づけた
しかし足はガタガタ震えていた。
ここにいたいのはやまやまだった
しかしそんな事をしていたら
俺は無我夢中で走った。
気が動転してるため、どこをどう走ってるのかわからない。
地面を走ってるのか天を走ってるのか、そんな馬鹿げた事まで判断できなかった。
少し動揺と興奮が収まると頭がはっきりして来た。
すると急に不安が俺の気持を暗雲のように包んだ。
あんなに血が出てたすかるんだろうか?
俺はその不安を頭を振って振り切ろうとした。
俺は自分を元気づけた。しかし、頭の中の、その言葉さえ震えて涙声だった。
急に足に力が入らなくなった。
膝がガクガク落ちていくような足取りの重さを感じた。
気持は進もうとしてるのに身体に気力がない、そんな真反対の感覚に襲われた俺はそのまま膝をついて子供のように泣き叫んでいた。
「だれか
誰でもいい
助けてくれ
彼女が、俺のE美が」
現場からもっとも近い総合病院の救急センターに救急車が到着したすると、一台のカウンタックが救急車によこずけした、そしてなかから40半ばの長身で体格のいい男が出てきて別の通用口からセンターの中へ入って行った。
「よいしょ」と看護士達が協力して救急車からストレッチャーに若い女の患者を移すと中から付き添いの若い二人の男が出て来た。
一人の男は冷静だったが、もう一人は狼狽して、ただ患者の手にしがみついていた。
カウンタックの男が私服のジャンバーのまま現れた。
患者についてた看護士が言った。
「先生、その恰好じゃ」
医師と思える男は看護士には答えず患者の横についた。そしてライトで目を照らした。
「バイタルは、どうなってる」
看護士はデータを見せた
「全輸血(全成分輸血)が必要だ
バンクの方の手配は?」
「はい、してありますがシーズンの渋滞で」
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