宿命

18/19
前へ
/113ページ
次へ
「製剤(血液製剤。血液成分の一部を保存したもの)は?」 この間もストレッチャーは病院の奥に入って行った。 「いや、その」 看護士たちは実情を話たくないようくちごもった。 「アルブミン(製剤の一つ)ぐらいのものか?」 俺は言った。 「俺のを使って下さい」 Bも言った。 「俺のも使って下さい、お願いします」 「君ら血液型は?」 「二人とも患者と同じAです。」 医師はしばらく考えていた。 その間にストレッチャーは処置室に入った。 医師は覚悟を決めたように看護士を呼び指示した。 「君、この二人の血液型の再検査とスクーリニングと交差適合反応を至急(いずれも輸血の重要検査)」 処置室から若い医師が血相変えて出てきた。 「院長、院内採血は感染の問題が」 「クランケの命がかかってるんだ 責任はすべて俺がとる」 「じゃあせめて同意書を」 「時間がないんだ そんなの後だ」 「しかしいくら院長でもルール無視は謹んで下さい この病院が駄目になったら、ここら辺の地域医療の一角が崩れてしまう」 「クランケを救えない病院なら、いくら生き延びても意味はない」 院長はオロオロしている看護士に言った。「何やってる、院長命令だ 早く連れて行け」 看護士は二人を引率していく 院長と若い医師はにらみ合いながら、若い医師は処置室に院長は廊下の奥に向かう 診察室 レントゲンの結果を見ている委員長のパソコンに検査結果が入ってくる。それを見て電話する院長。 「Aさんを採血してくれ」 血液検査室の前 待ち合いのソファーには、俺とBが不安に駈られながら座っていた。 中から看護師が出て来た。 「Aさんは、どちらですか?」 俺は手を上げた。 「私です」 「200CCほど採血させていただきますが、よろしいですか?」 「お願いします」 「じゃあ、こちらへ」 Bが看護師に声をかけた。 「あの、僕は次ですか?」 「貴方は待ち合いに帰って結構ですよ ご苦労様」 Bは何を言われたのか、すぐ理解できずキョロキョロ周りを見回した。 「あの、それは、どうゆう事ですか?」 「貴方は交差適合反応が陰性だったんです」 「それは、ダメって事ですか」 「なかなか難しいんです」 Bは病院中に響くような声で怒鳴った。 「そんなバカな」
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加