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手術開始から、どのぐらいたったのだろうか、その間にマネージャーと事務所の人間が来て両親と別室を借りて今後の打ち合わせをしていた。
こんな時にもマスコミ対応を考えなければならないとはタレントも大変である。
やがて疲れた顔をして両親が戻ってきた。
こういう時にも感情的にならず冷静に対処出来るのがインテリのすごさである。
事務所の人間は用事がすむとさっさとかえって行った
せめてタレントマネージャーだけでも残ればいいのに
もっとも、こうゆう時は私情を捨てるのが本当のプロなのかもしれない、彼らに出来る事は英美のタレント生命を守る事、英美が休んでも復帰した時現役でいられるようにしてやる事だ。
人間は出来る事を精一杯やる事が誠意なのかもしれない。
それにたいして俺はなんだ?
俺に出来る事など何もない
ただついていてやるだけだ。
それは彼女の両親だって同じ事だろう
優秀な検事さんも、何も出来ないのだ。
そんな無力感は、ここにいる誰もが感じていた。
特に両親は出来る物なら変わってやりたいと思ってるだろう
しかし、その無力感を主張しても、まわりにいる人間に迷惑をかけるだけで、意味もないので皆我慢していた。
しかし、その理性は正常な状態の人間にのみ働く物であった。
突然坂東が立ち上がった時我々は坂東が何を考えてるかぜんぜんわからなかった。
しかし次の瞬間そんな事は言ってられなくなった。
英美の父親が珍しく言葉をあらげていた。
「君一体何するつもりだ」
それも、そのはずだった。
坂東は手術室のドアをこじあけようとしていたのだ。
「ロックかかってらあ、畜生あけろ」
坂東は手術室のドアをドンドン叩き始めた。
まわりは一瞬にして氷ついた。
母親が狂ったようなかなきり声を上げた。
「何するつもりですか?」
「何って手伝うんですよ手術を
こうしてても時間の無駄です」
誰もがぼーぜんと、その言葉を聞いた
こんな風になったらまともな説得なんて聞くわけはない。
しかし、こじあけようと言うのをほっとくわけには、いかない。
「坂東、お前が行っても何もできない」
「じゃあ何もせず、ここで指をくわえて待ってろと言うのか?
俺には、そんな不人情な事はできない」
「不人情とか、そう言う問題では」
「お前は良いよな、彼女に救いの血を与える事が出来たから
じゃあ俺は何なんだ
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