英美

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じゃあ俺は何なんだ 彼女は俺の身代わりになって生死の境をさまよってる、なのに、この俺と来たら 体全部の血を与えて死んでもいいと思ってるのに、何もできないんだよ、わかるかお前に、その気持がよ」 坂東は何度も俺の両肩に手をかけ揺すった。 俺は魂を揺さぶられる気持になった。 坂東の立場だけは、なった者にしかわからない。 一方で俺は、あまりにも自分の立場が微妙なのに気がついた。 こんな立場の俺が坂東を説得できるのか? いや説得していいのか? 坂東は俺の弱気に気づいたかどうかしらないが、俺を振り切るようにまたドアにしがみついた。 「開けてくれよ、俺はあいつのために、何かしたい、いやしなきゃならないんだよ」 その悲痛な叫びは俺の心を針のようにさした。 『俺は坂東を責められない、止める事も出来ない』 躊躇した俺に対して英美の両親は娘を守ろうと必死だった。 父親は怒って一回りも大きい坂東の体をドアから引き剥がそうとした。 「君、いい加減にしないか? 殺すつもりか娘を」 しかし、おかしくなってる坂東には、通じなかった。 父親は坂東の強い力で振り払われ勢い余って壁に叩きつけられた。 「キャー」 母親は悲痛な叫びを上げて父親の所へとんだ。 それを見て俺は激情を抑えられなくなった。 「いい加減にしないかバカ野郎」 思わず手が出てしまった。 坂東の顎にパンチがみごとに決まり坂東は後方によろめいた。 「じゃまするんじゃねえ、」 坂東は憎々しく、こちらを睨みつけ、構えた。 不味い、乱闘になったら しかし坂東は獣のように襲いかかってきた。 避けられない、俺は覚悟した。 その時音がした。 「パシーン」 電気ショックの音である事は誰にでもわかった。 坂東は、その場に崩れた。 俺は後づさりしてよろめいた。 母親は父親にしがみついた。 父親はぼーぜんと天井を見た。 みんな気持は一緒だった。 今ある現実を把握したくない、結果を知るのが怖い、逃げ出せる物なら逃げだしてしまいたい しかし後で結果だけ聞くのは、もっと恐ろしい あの音が止まる時ひとつの結果がでるのだ。 こう言う時は早く主治医が出てくると絶望的場合が多いらしい やがて電気ショックの音は終わった そして静寂が訪れた 何故終わったんだ それを考えるのは誰もが嫌だった いい事は考えない。
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