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「あ、うん、たまには読書でもと思ったんだけど……活字を見てるとつい……」
どうやら彼女は読書が苦手なタイプらしい。
「それは、きっと自分に合った本を選んでないからですよ。ちなみに、なにを読んでいたんですか?」
私の問いかけに対して、坂崎さんは持っていた本を小さく掲げて見せる。桜の園、チェーホフだ。
「なんでこんなに難しい本を?」
「いや……なんだかこういうのを読んでるイメージがあって」
「誰のイメージですか?」
「あ、えっと……本好きの人」
なんだか、はぐらかされたような気がしなくもないのだけども、そんなことを気にしていても仕方がない。
「よければ、本を選ぶの手伝いましょうか?」
「ホントに!?」
「はい、でも今日はもう閉館なので、また明日にしましょう」
「うん、分かった」
そして彼女は子供のような無邪気な笑顔を見せた。差し込む夕日が坂崎さんを照らし、彼女の紅い唇がさらに朱く染められているのが目に入り、先程のキスを思い出して何故か胸が高鳴るのを感じた。
顔が紅くなるのを見られないように、坂崎さんから顔を背けて、片付けを始めることにした。
「あの……」
「ん、なぁに?」
「何故、急に読書を?」
「いや……その……まぁ、もう目的は達してるんだけどなぁ」
「え?」
それ以降は押し黙ってしまった坂崎さんの顔は夕日に照らされて朱くなっていた。
fin
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