お酒と涙と女2人

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(最悪だ……)  人生の中で一番見たくなかった光景を目にしてしまった気がする。  土曜日、コンクールが近いため遅くまで学校で吹奏楽の練習をしていた私は、駅の近くでうずくまる酔っ払いを見下ろしていた。  週末、この時間帯に酔っ払いがいることなんてよくあることだが、その酔っ払いをほっとけない事情があった。 「……篠宮、先生……」  見間違うことなく、私のクラスの担任の篠宮先生だった。  篠宮先生は学校では人気のある人で、美人でスタイルもよく、何でもそつなくこなす所謂出来る女といった感じだ。だけど、取っ付きにくい雰囲気はなくて、ユーモアのある気さくな女性である。  みんなの憧れ、そんな篠宮先生が酔いつぶれて道端でうずくまっている。クラスメートが見たら何人かはショックで倒れるかもしれない……。 (かく言う私も、憧れてたんだけどなぁ……)  軽く目眩を覚えたのを抑えて、うずくまっている篠宮先生に声を掛ける。 「先生、篠宮先生」 「ん、ん~……あ~……」  先生は一瞬だけ目を開けて私を見ると、またすぐに目を閉じた。 「せ、先生」  今度は肩を掴んで揺さぶりながら声を掛ける。鬱陶しそうに眉を顰めて、再び先生が目を開ける。  しばらく虚ろな目で当たりを見回していたが、私の顔にピントを合わせるようにジッと見つめてきた。 「あ、あの~……」  見つめられたままの私は少し気まずくなり、恐る恐る声を掛ける。  最初は無反応だったが、見つめ合って1分程経った辺りで篠宮先生の目が驚いたように大きく見開かれた。 「あ、え、あれ、山科さん?」  目の前にいるのが私だとようやく気が付いたようで、勢い良く身体を起こす。しかし、すぐに頭を押さえて俯く。 「あ、頭痛い……」 「だ、大丈夫ですか……?」  膝を付いて先生と目線を合わせる。良く見ると篠宮先生はひどい格好をしていた。いつも通りのスーツ姿なのだが、胸元がはだけていてシャツには赤紫色のシミがいくつか付いていた。色んな意味で、少し目のやり場に困る格好だ。
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