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「……ただいま」
兵舎から自室として使用しているテントに戻ると、私を見つけて仔犬のように駆け寄ってくる少女がいる。
私付きの侍女(メイド)のアリスだ。
「おかえりなさいジャンヌお姉さま!」
「ただいまアリス、変わりはない?」
「はい! お姉さまがお帰りになるまで、大人しくしていました」
褒めて下さいと言わんばかりに見上げてくるアリスに私は無言で微笑むと、彼女の頭を軽く撫でた。
それで、それだけの事でアリスはこの上なく幸せそうな表情になる。そして私もそれだけの事で血生臭い戦場での疲れなど忘れて、この娘への愛しさで胸が一杯になるのだ。
アリスと初めて出会ったのは戦場でだ。
焦土と化した町で、泣くことも出来ずに立ち尽くす少女を見て、私は自室まで連れ帰ったのだ。
幼く、か細く、儚いその姿に、かつての自分自身を映していたのかもしれない。……まぁ、実際に側に置いてみたら儚いどころか、仔犬のような元気のよさが目立つ娘だったのだが……。
思わず苦笑を漏らした私に、アリスが首を傾げて見せる。
「お姉さま……?」
「フフッ、ごめんなさい、貴女の様子が昔飼っていた仔犬にそっくりだったものだから」 それを聞いてアリスが少し頬を膨らませてみせる。私はよくこうして彼女をからかい、彼女もムキになる。……こうしている間だけは、私も『聖女ジャンヌ・ダルク』ではなく、一人の『ジャンヌ』になれるのだ。
そんな愛しい彼女だから、私にとっての『特別』になるのは時間はかからなかった。
彼女も……きっと同じ気持ちだろう。
もしかしたらそれは、動物の刷り込みのようなものなのかもしれない。それでも私を慕っていてくれているのには違いない。
……ただ、しかし……私は『聖女』だ。
神の声を聴いたのがあれっきりだとしても、たかだか16、7の小娘でも、皆が私を『聖女』と慕う限りは、私は『聖女』でいなくてはならない。それはどういうことか……他でもない、私が一番よく知っている。
我が教の戒律では同性愛は禁じられているのだ。無論、『汝、姦淫するべからず』の言葉がある通り、身体の関係などもってのほかだ。
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