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遠退いた意識を必死に手繰り寄せて、私は今の状態を考えた。
目の前にいるのはクラスメートの坂崎さんで、場所は図書室。時間帯は放課後で、状況は……唇を触れ合わせている……。
「さ、坂崎さん……!?」
私は飛び退くようにして彼女と距離を取ると、ずれた眼鏡を押し上げる。
坂崎さんは私の言葉に返事をすることなく、呆けたような表情で私の事を見ていた。
私は図書委員をしており、今日も図書館の受付をしていた。
日が傾き下校時刻も迫っていたので、そろそろ片付けをして帰ろうかと思い立ち上がると、奥の方にまだ人が残っていることに気がついた。
(誰だろう?)
緩いウェーブのかかった栗色の長い髪を見て、図書館の常連を何人か思い浮かべてみたが誰も該当しない。
その人は肘をついて本に見入っているようだった。
とにかく、そろそろ閉館であることを伝えなければならないので、私はその人物に近づく。そして、よく見ると見知った人物であるということに気がついた。
同じクラスの坂崎悠里さんだ。
清楚なお嬢様のような見た目でありながら、活発で明るく物怖じしない性格である。
しかし、あまり図書館にくるところはみたことがない。
「坂崎さん? そろそろ閉館ですよ」
私は声をかけてみたが返事はない。そこまで集中する本とはどんな本なのだろうか? 本好きの血が騒いで、彼女のすぐ近くから覗き込むようにして内容を覗く。
内容を目にした瞬間、衝撃が走った。精神的にではなく、物理的に。
「――ッ!?」
すぐ目の前に坂崎さんの顔があり、唇に暖かい感触がある。
自分達がキスをしていると気付くまでには数秒の空白があった。
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