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十字架の首都ヴェイルの南から北へ、西から東へと続く大きな通り。
通称゛クロスロード゛といって、各門へと繋がっている。
このクロスロードの交わるところにある、国立騎士闘技場。
そこに変な噂をもつ騎士が毎日訪れ、破竹の勢いで連勝しているという。
今日もどんな噂か気になる者が、闘技場へと足を運んでいた。
「今日も……来てるの?」
「勿論ですとも。姫、お席はあちらになります」
綺麗なスーツとアクセサリーを身に纏う、少し老いているが元気な使用人が闘技場の特別席に向かっていた。
姫と呼ばれた美少女は、ふかふかとした椅子に座ってアリーナを見下ろす。
「姫、わかっておられるとは思いますが……選べる騎士は1人だけでございます。育成学校からの卒業生達にもどうか目を向けてあげてくださいませ」
「爺、わかってるでしょ? 私は育成学校を卒業した騎士が大嫌いなの!」
「ですが……!」
「爺、口を閉じて。私はただ強いだけのペットは嫌いなの……それだけなのよ」
ため息をした使用人は、騎士育成学校の卒業生のリストを見ながら黙った。
特別席には、暫くの沈黙が訪れた。
それから3分が経ったくらいか。
沈黙を破ったのは、アリーナの実況をしている人の声だった。
『お待たせ致しました! 今日の大一番! 連勝に連勝を重ねてきた18歳の゛元゛騎士が遂に、快挙となる100人抜きを果たすのか!』
実況の言葉と共に、我を忘れてしまったような観客が歓声を上げる。
『挑むのは育成学校をAランクで卒業した騎士、只今20連勝のブラックホースだ!』
特別席で卒業生のリストを見ていた使用人が、驚きの目でアリーナを見た。
「姫! あの男、育成学校で一時期有名になっていた゛黄戦斧゛です!」
「わかってるわ。育成学校の広場に傷をつけた最悪な男でしょ。言っておくけど、私はあれは無理よ」
アリーナには異名の通り、黄色の斧を肩に乗せた男が現れた。
同時に、反対側の入場門からも1人の男が歩いてくる。
お互い睨みあって動かず、そのまま時が過ぎる。
「随分悠長に構えてんじゃねぇか。……死にに来たのか? 武器すら出さねーでよ!」
「……」
黙ったままの男は腕を背中にやり、輝く光を握りしめて引き抜く。
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