深淵を覗き見た日

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時々、夢を見る。 夢とは、人の心の隠れた願望が頭の中で実現したモノだと言われている。 つまりソレはあくまでも『夢』。 僕のニューロンと神経細胞と脳細胞と微弱な電流、それらと僅かな欲望が造り上げた仮初めに過ぎない。 時々、夢を見る。 其処にいる僕は僕ではない。 ソイツの腕、足、身長――つまり体格は僕そのものだが、違う点が一つ。 両手には拳銃、腰にはマガジンがズラッと並び、理由も知らずに次々と人を撃ち殺していくというという点。 其処にいる僕は僕ではない。 アリのように蠢く人々。 脚にすがり、助けを求める人々。 辺りの惨劇を目の当たりにし、泣き喚く子供。 その子供を抱え込み、ブルブルと震える母親。 ただ残酷に―― ただ冷酷に―― ただ非情に―― 恐らく、其処に僕の意志は存在していないのだろう。 何故なら、僕は其処にいる僕のように、見るもの全てに恐怖を刻み込む……。 そんな狂ったような、それでいて底抜けに楽しそうな顔は一生しないだろうから―――。
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