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「ぼちぼちってとこだな。そういうお前はもう出発か?」
「まぁな。こっちに居る間色々と世話して貰った訳だしさ、別れの挨拶くらいしておかなきゃ狩人の名が廃るってもんだよ」
「あぁそうかい。そりゃありがとうよ。って訳で挨拶は済んだんだしよ、俺の事は気にせずとっとと故郷に戻りな。じゃぁ元気でな」
背中越しに聞こえる声はどこか刺々しさを漂わせていた。ひと段落した会話後に青年の顔は苦い表情へと変わる。
「そりゃ無いでしょーよ。はばからずも一年近くも仲良くやってたんだ。俺としては見送りくらい気持ちよくして貰いたいな」
青年が言い終えるや、壮年の男は抱えていた荷物を地面へと置き大きく溜息を漏らした。
そのままゆっくりと青年へ振り返り先程とは一変、何か不安があるかの如く弱々しい口調で言葉を吐き出した。
「なぁファスター。判る、判るぜ。お前の言う通り一年間も世話してきたんだ、そりゃ手前の考えてる事だって手に取るようにわかっちまうんだよ」
男は頭はガシガシと掻きつつ俯きながら続ける。
「だからな、そんな俺へ少しでも礼がしてぇって言うならよ、今すぐ黙って俺の前から消えてくれねぇかな?」
地を見ていた男は一息、二息と吐き、そこから更にもう一息入れた後にゆっくりと顔をあげた。
するとどうだろうか。男からファスターと呼ばれた青年の姿はそこに無かった。
どうやら男の言い分に何か思う所があったのだろう。男の吐いた言葉通りとなっていた。
男はその場で肩を竦める。
「おいグラン!何してんだ。さっさとしないと日が暮れちゃうよ。三日以内には街へ帰りたいんだから早く準備しちゃおうよ」
「わぁった、わぁったよ畜生。俺の負けだ、乗せてってやる……ってお前何してんだ!!積荷に座るんじゃねぇ!!そりゃ客の大事な品物だ!!」
ファスターはいつの間にかグランが作業していた船に乗り込み、積荷の一つに腰を掛けて笑顔をこちらに向けていた。
グランは慌てて船に飛び乗った。が、その際ファスターが船の重心を動かし彼は横転、哀れや川の中へ落ちて行った。川自体は街中を流れている為深くは無いが、当然人が落ちたのだから濡れる。ファスターは額に青筋を浮かべわなわなと震える男を指差し腹を抱え笑っていた。
ファスターの腰を据えている積荷、そこに貼られている小さな紙には《グランのニコニコ水上運送屋》と書かれていた。
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