一狩目~碧の女・始~

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「ご苦労さん船長。毎度酷い船旅をありがとうございますって感じかね」  鼻で笑うグランは前方を見つめたまま口を開いた。 「はっ。馬鹿言え、今こうしてずぶ濡れにならずに立っていられるのは俺の敏腕あってこそだろうが」  事実であった。この船に乗っている全てのもの達は水滴すら蚊程もついてはいない。 実際グランの運送屋は程ほどに繁盛している。  狩人のように戦う事を生業としていない人たちにとっては、遠くへ荷を運ぶ時に二通りの方法があった。一つは先述した狩人に配達を委託する。危険なモンスター等が出る陸路はそれなりにリスクが付き纏う。当然それに見合う対価をギルドは要求するので、如何せん懐に優しくない方法だ。  しかしそこは狩人の名を冠する人達である。 荷物一つ運ぶ事も仕事のうちと確実に運び終えるだろう。  世界の中心ハンターズギルドは如何なる事にも手を抜かったりはしないのだ。まぁそれも一概には言えないのだが。  それはそうともう一つの方法。 それはまさしくグランの様な水上運送屋に頼む事だ。こちらは陸路と打って変わり、モンスター等に遭遇する確率はほぼ無いと言ってもいいだろう。当然竜の中には水中に生息するものも存在するが、こうして開拓されて来た運河等に出没した例等も、過去の歴史を掘り起こした所でたいした数に上らない。 安全でリスクも低い為こちらは単価が安くなり、当然多くの人はこちらへ運搬を頼んでいる。  しかしそうなってくるとこの水上運送を稼業としている人々も多くなる。 多いも何もこの仕事、この世界で恐らく片手内に入る程の競争率なのである。 物資の行き来が生活を左右するこの世界では非常に需要がある仕事なのがこの水上運送屋であった。 その中で確かな地位を築いている人達等極少数であり、当然そういった者達は大人数で作業をする事でその基盤を確かなものにしていた。  そしてこのグランのニコニコ運送屋。なんと今年で創業百二十周年を迎える老舗中の老舗であった。 グランの家が代々この運送屋であり、グランはその四代目に当たるらしい。  しかしこの運送屋の知名度は大きな所のそれと雲泥の差である。当然だ。 何せよ彼一人で切り盛りしているのだから。 先祖代々受け継がれたこのスタイルを一貫して貫いているのである。 では何故ここまで息が長いのか。 その理由は単純で明白、実に判り易い事ある。
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