一狩目~碧の女・始~

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――腕がいい。 ただこれに尽きた。 水上で憂慮すべきは先程あったような突然の緊急事態からいかに船を捌いていくか、これにより積荷の到着時間に大きな差が出るのである。先程起こった水上での揺れも捌くべき弊害の一つ。  あれは水の中なら広い域で生息しているママイと呼ばれる片手程の甲殻生物が、睡眠時に出す特別な音、それがそのまま水に響きああいった形で時として水面に現れるのである。  そのような懸念事項を悉く跳ね除け、確実かつ、その長い歴史と確かな腕が示す信頼から地元の人達からは、大きな運送屋とは比ぶるもない人気を勝ち取っていた。 また非公式ながらギルドの裏の配達等を時々受注しているのもグランの運送屋である。  その確実な仕事振りはそんじょそこらのそれとは大きく掛け離れた存在なのだ。 まぁ知名度が低いのは否めないが、そればっかりは本人が望んで居ないのだから仕方が無い。  そんな訳で簡単にまとめれば、余程大事な物の配達で無い限りは水上から、口外無用の代物等はギルドといった感じで配達業は成り立っているのだろうと。 「それよりどうだ、今日の宿先が見えて来たぜ」  パラパラといよいよ降り始めた雨。それは瞬く間に運河の水面、その至る所で激しい波紋を拡げていた。 そして歪んだ水面上には、彼の言葉通りに街らしき姿が映し出されていた。   ◆     ◆     ◆     ◆     「お待たせしました。こちらがフラヒヤビールとワイルドベーコンになります。ご注文の品は以上で?」  これでもかという営業スマイルを振りまき、テーブルでうな垂れている男に確認を取るウェイトレス。 ファスターはテーブルへ突っ伏したまま片手を挙げてひらひらと振る。  それを了解と受け取ったウェイトレスは、緑色のスカート翻しそそくさと厨房へと引き返して行った。 ――酒場。  ファスターとグランの二人が昼頃にドンドルマを発ってからおよそ四時間の航路で到着したこの(ダイエン)。 世界の基準をドンドルマとして、彼の場所から西に位置する此処は陸路でも半日と掛からない程に距離としてはそう遠い関係に無い。また、その立地する位置から西方から来る商人や狩人等がドンドルマを訪れる際に中継点として利用する為、街としてはそこまで大規模で無いながらもそれなりの賑わいを、一年を通して伺う事が出来る。
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