一狩目~碧の女・始~

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 そのダイエンにある酒場で、ファスターがどうして酒と肴を堪能しようか。理由は三つ。  一つ。水上を進むに当たって雨はその懸念すべき第一項に匹敵する程の事態であるから。  二つ。ファスターの送迎はあくまでも《ついで》であり、グランとしてはその航路中に届け先があるのなら当然仕事を優先する。  三つ。グランの気になる女がこの町に住んでいる。  そもそもドンドルマから普通に航海してもファスターの故郷まではゆうに丸五日は掛かる。たとえ乗り込んだ船の船長がいくら仕事の出来る人物でも三日はかかるとは本人の談。 まぁファスターとしては別段急ぎで帰路に着きたい訳でも無く、こうしてふらりふらりとのんびりの旅も悪くないようで、こうしていれば土産話の一つでも作れるだろうと。  結局の所、三つ目の理由が挙がっている以上この街に立ち寄る事はファスターも端から知っていたようで、現在仕事を終えたであろうグランは、その女と話し込んでいるだろう。明日の昼頃にでも出立出来ればいい方である。  さし当たってファスターとしては結局やる事も無くなり、仕方なしにこうして大衆が集う酒場へと繰り出した次第であった。  もう一時間もすれば一日が終わるであろうが、雨音の止む気配は一向に無い。 賑わいという喧騒が包むこの酒場で、面白い話は無いかと聞き耳立てつつ運ばれてきた料理に手を付けていた。  入ってくる話に別段興味惹かれるものも無く、ただ黙々と食事を進めていた彼であったが不意に肩を叩かれて後ろを振り返った。  女だ。 「あぁ、娼婦とかの類なら間に合ってるよ。生憎俺は生涯貞操を守るって決めてるんでね」  明らかにその類で無い事は明白だった。 何故なら彼女の服装はファスター馴染みの狩人が身を包むそれだったのだから。
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