一狩目~碧の女・始~

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 彼としては、もうこの際だから適当に時間を潰して宿のベットでさっさと寝たい気分のようで、いい感じに酒場が出来上がっている時間帯で自分へと話し掛けて来る酔っ払いの相手等ごめん被りたいらしい。 「素面だけど?ほら」  女はファスターへ顔を近づけ大きく息を吐いた。 どうやら本当に酒は入っていないらしい。 ならどうして。 「えへへ。お兄さんが腰にぶら下げてる物が目に入っちゃってさ。貴方も同業者でしょ?」  ファスターは自分の腰を見て納得した。狩人証(ハンタープレート)を付けたままである。  狩人証。その名の如く、全ての狩人にギルドから支給される両手程の大きさの四角い金属板である。狩人は各所で融通が利くのだが、それらを利用して悪事を働く者も当然居る訳で、そうした事を防ぐために狩人たる証拠としてこれが存在していた。 「まぁね。さっきは汚い事言って悪かったな」  その女は終止笑顔を絶やす事なく謝罪を受け入れた。そしてファスターの目の前に移動し腰を掛ける。 「あっ!ウェイトレスさんちょっと注文!このお兄さんと同じ物を私にも頂戴」  女は丁度近くを通り掛かった店員に手早く注文を告げる。そして終えるや再び口を開いた。 「それにしても紅色プレートで更に三本線かぁ。お兄さん狩人歴は?」 「うーん、先月で二年目だな。そういうあんたはっと」  瞬間腰を引き腰の辺りを手で覆う女。表情も苦虫を噛み潰したような、そんな感じだ。 「あははー。お兄さんなんかには遠く及ばねぇっすよ。恥ずかしくて見せられねぇ」 「平気だって。んなもん隠したって何の特にもならねぇんだからさ。そんな恥ずかしがる事ねぇよ」  その後も暫くそうしたやり取りをしていた二人だが、ウェイトレスが注文の品を運んできた辺りで女の方が根負けし、渋々プレートを外しテーブルの上へ置いた。 「碧に一本線か。って事はお姉さん新人さん?」  返事が無い。ただのとうへんぼくの様だ。
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