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9月のあの日。高木くんの正式なCDデビューが決まった。
僕はそれを目の当たりにし、情けないことにステージで少し涙を見せてしまった。
ちょっと裏で落ち着きたい。勝手に捌けようとしたら、スタッフさんに怒られて泣き顔のままステージに戻された。
高木くんはそれを誰かから聞いたのだろう。コンサートの後に久しぶりに「一緒に帰ろう」と誘ってくれた。
正直高木くんとちゃんと話すのは複雑だった。でも久しぶりにちゃんと話せて、生身の高木くんが目の前にいるのが嬉しかった。
「俺の家の場所、覚えてる?」
「覚えてるに決まってるじゃん。いっぱい遊びに行ったし!」
高木くんは時折、気まずそうな顔で変な質問をしてきた。
僕は彼に対する嫉妬心を表に出さないよう振る舞うのが精一杯で、高木くんの質問の真意には気づかなかった。
「今日誰も家にいないんだ。良かったらはっしー、久しぶりに遊びに来ない?」
単純に嬉しかった。久しぶりの高木くんからの誘い。
何も知らずについていく。
それが、僕達の関係を大きく変える引き金になるとも知らずに…。
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