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『死』という概念に物心ついた時から縛られていた僕は、自分があと何年生きられるかを分かっていた。
多分、もう長くなくて。
ただ目の前にいるななみが、僕が死んだ後誰かに笑いかけているのかと思うと我慢できなかった。
彼女を不幸にしたいわけじゃない。
でも、幸せにはなってほしくなかった。
『僕』という存在を『幸せ』によって忘れてしまうのだということに、どうしても我慢できなかった。
僕にとって、ななみは…
失っていた涙で、
失っていた笑顔で、
失っていた怒りで。
生きているからこそ出来る表情を惜しげもなく僕に与えてくれる。
『可哀相』なんて言葉を絶対に言わない、病気以外の僕を見てくれる唯一の存在。
彼女の目が見えなくて良かった。
僕はななみのころころと変わる表情を見ていて、いつも泣きそうだった。
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