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「私はね、妖精になりたかったのだよ。すてきな妖精にね」
「行こう、道は僕が探す。早くこの変態から離れよう」
僕は彼女の手を取って立ち上がった。
「まて、まだ話はこれからだから! オープニングだから!」
「そうだよ、ひろふみくん。人の夢を馬鹿にしちゃいけないんだよ?」
「…………」
しぶしぶと座りなおす僕。シルクハットは話を続けた。
「でも人間が妖精になんかなれるわけもなく、私はただの人間として、成功をおさめた。だけどね、年をとるごとに、昔のことほど繊細に覚えてるものだ。私は妖精になる夢を諦めることができなかった……」
欠伸が出そうな僕の隣で、このくだらない話を彼女は真剣に聞いている。びっくりするほど心の広い子だ。
「私は妖精になるために何でもやった! ネバーランドにすむという白い男のもとを訪ねたり、三十歳まで童貞だと妖精になれると聞いたので、三十歳まで童貞を貫いたり、怪しい黒魔術を勉強したり、とにかくいろいろやった! ……でも、なれなかった……」
……ツッコんだら負けだと思う。
「そして私は、それから、私の会社が倒産したり、貯金が無くなったりスキミングされたりで、人生のどん底まで落ちてしまったんだ……」
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