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「僕は小2の頃に道に迷ったことがあってね。その時助けてくれたシルクハットの変人が言っていたんだ。『人は道に迷ってしまうことが多々ある。その時どうするかで、人生も変わる。その時に取らなければならない行動だけは、迷ってはいけないよ』……その変人は僕を家まで送り届けた後に、名も名乗らずに去って行ったんだ」
僕は彼女にそんな話をした。
彼女は感心したように頷くと、実に彼女らしい言葉で返してきた。
「きっとその人は、迷い道の妖精さんだったんだね! きっとひろふみ君が道に迷って困ってるところを見て助けに来てくれたんだよ!」
「と、僕は昨日そんな嘘を考えたんだよ」
僕の彼女はか弱く見えるが、その実、かなり力が強い。
得意技はジャイアント馬場のような華麗な水平チョップ。 それを食らう時、僕はいつも彼女より身長が高くてよかったと思う。
あんなものを喉や首にぶち込まれたら還らぬ人になってしまうことだろう。
「返して! 私の感動を返して!」
胸に当たっても相当にきついものがあるのだが、そんなものはお構いなしにずこんずこんと容赦がない。
僕は基本的にマゾヒストな分類なので痛いながらもそんなちょっと怒った彼女を見たくて時折、先ほどのような嘘を付いている。
ただ、マゾとはいっても僕は痛いのは好きじゃない。
怒られたいだけなのだ。
「ごめんごめん、さっきの話は嘘だけど、迷い道の妖精さんはもしかしたらそのうち現れるかもしれないよ?」
彼女は僕の破壊活動を停止、はてなマークで頭上をいっぱいにしてから、僕の方を見た。
よく分からない顔をしている彼女に、一呼吸おいて、僕はこう告げた。
「僕たちは、道に迷ったみたいだ。」
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