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「何…言って……」
「今夜だけでいいから……私を愛して」
思考回路がストップして、思わず瞠目した。
呆気に取られる僕を後目に、彼女は淡々と言った。
「忘れたくない思い出が欲しいの」
「それって…どういう」
冷静を装ってはいたが、内心、激しく動揺していた。
「私に…生きる力を与えるために、抱いて下さい」
彼女の瞳は、あまりにも揺るぎなくて、誤魔化しきれないと思った。
「あ―…え~と。俺も…男だからね。昔から、据え膳食わぬが男の恥とも言うし。
つうか……
んなこと言ってると、マジで食うぞ?」
冗談交じりに、けれど半分本気でそう言うと、彼女は事も無く答えた。
「袖振り合うも他生の縁とも言いますよ?美味しく食べて下さいね」
―――この時、僕は、彼女には到底敵わないと悟った。
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