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 土曜の朝、僕は父に連れられてフェリーに乗った。祖母の家へ行くためだ。祖母は、数年前に祖父が他界して以来、ずっと1人で暮らしている。そのため、僕は年に一度は会いに行くことになっている。  フェリーが出航してから、しばらくの間、僕は室内の椅子に腰掛けて、ぼうっとしていた。父はトイレに行ったまま、なかなか帰ってこない。このまま座りっぱなしというのもなんだかつまらない気がしたので僕は甲板に出てみることにした。  風は肌に心地良くなじむ。潮の香りはちょっとしたスパイスになっている。僕は手すりの上に腕を組んで、海を眺めた。陸はすでに遠く離れ、奥の方には小さな山が連なっている。空は群青色で、小さな浮き雲はゆったりとした時間を過ごしている。  下をのぞき込むと、黒い鉄板は轟音と共に白い波をなぎ払っていた。 「少年は海は好きかい?」突然、肩をポンとたたかれた。振り向くと小柄なおじさんがニコッと笑っている。 「まあ、別に好きってわけじゃないけど…」苦笑いしながらぼそっと答える。おじさんは「そうかそうか」とうなずいて、隣の手すりによりかかった。白髪混じりの頭は、僕の目線とあまり変わらない高さにある。
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