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――ヒュウ――
さっきまで正面から吹いていた潮風はいつの間にか向きを変えていた。背中に風が吹き付けている。
「――少年はどう思う?」おじさんは遠くを眺めながら言った。さっきよりも低い声。
「どうって何が?」
「海のことさ」
「……海?どう思うったって……」思わず口ごもってしまう。白い綿菓子はふわふわと流れている。改めて海を見てみる。波打つ水面は、穏やかに音色を奏でている。海は陽気だ。さらに見つめてみる。すると、何だか急に吸い込まれそうな不思議な気持ちになった。海は深い。そして、暗い……
――ザザーン……
「何だか、うまく言えないよ……」
「そうか……」おじさんは、僕の方を向いて、ニコッと笑った。潮風が頬をかすめる。僕は、しばらくの間、海を眺めていた。
……父はもう戻るころだろうか。僕がきびすを返そうとした時、すでにおじさんはいなくなっていた。辺りを見回してもどこにも見当たらない。手すりに身を乗り出して海を見回してみる。すると、フェリーの近くに透明な何かが浮いているのが目に付いた……
「おーい!」父が呼んでいる。僕は大きく手をふりながら駆け寄った。
その後、フェリーで再びおじさんと会うことはなかった。
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