7月

5/25
前へ
/26ページ
次へ
「じゃあ、宿に行こうか?」 「そうだな」 俺たちは、既に静まり帰った商店街を歩く。 潮の香りがまだ俺たちの嗅覚を刺激する。 商店街を抜けて駐車場に出ると、ずっと待機させてあったタクシーに乗り込む。 「いやぁ、料金がバカになんないですね」 「そんなことないですよ、いってもウン十万円ですよ」 タクシーの運ちゃんと笑いあう。 釣られて林檎も笑う。 その笑顔だよ、俺が好きになったのは。 「あとどのくらいで着きますかね?」 「えぇー、大体15分ですね」 「ありがとうございます」 時間がけっこうあるようなので、俺はウエストポーチからデジタルカメラを取り出して、先ほど撮った写真を確認する。 写真に写るのは、夕陽をバックにして微笑む林檎、そして観光名所にありがちな石碑。 《島根県 東尋坊》 俺はカメラをウエストポーチに戻し、道端で光る高圧水銀灯を数えていた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加