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オーナーは俺の反応を見てかやれやれとため息をつき、ポケットから煙草を取り出して無造作に口に加え火をつけた。
「おまえは世の中に無関心すぎるんだよ…そっからそこ磨いとけよ」
「はい」
オーナーから指示された場所に走っていき早速床磨きを開始する。
床磨きは楽しい。
なんだか自分がステップを踏んで踊っている気分になれるから。
誰も気にしてるわけじゃないけど。
「初めてこの店に来たときもそうだ」
不意にオーナーが口を開いた。
「土砂降りの中店の前に立っててさ。
俺の姿見たとたん『働かせてくれ』って。
あんときのおまえさ、なにも考えてなくて自我すらなかったんじゃねえの。
ただ働かせろって単語言っただけなんじゃ」
あぁ…あの日、か。
覚えてる、覚えてるよ。
だってその日は
「だって俺、宝物なくしたんだもん」
「?」
「俺のとっておき、なくなったからですよ」
そう。だから何も求めてなかったんだ。
求めてないから、どうでもよかったんだ。
それが働き始めた口実。
俺は翔べなくなったから。
カクテルを注文した男がひゅうと口笛を吹く。
その視線の先を見るとお店ご自慢のポールダンサー2人と黒人のジャズシンガーがステージに立っていた。
そろそろプログラムの時間か。
また掃除しながら踊ろうか。
いつもいつも聴いてるあの曲にのって。
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