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優一が教室に戻ってきた。
「待たせたな。一緒に帰ろう。」
「うん…。」
「どうした?」
「え?」
「元気がない…。何かあったか?誰かきたのか?」
愛はその問いに首を振った。
相澤先生のことは、話さないほうがいいと思ったからだった。
「そうか。無理はするなよ。」
「うん。大丈夫。」
愛は笑う。
二人は学校を出る。
もう沈みかけている夕日が、優しく照らしている。
優一も、ようやく訪れる夜に目が開いてきている。
「綺麗な夕日だね。」
「この世界は空が綺麗だからな。真っ青と、赤とオレンジ。風は少しにごってるが…」
二人は、綺麗な空を見るのは初めてかもしれない。
人工太陽を形成し、魔力強化をして毎日明るい生活を送っていた光種族。
太陽などの光を一切遮断し、深い暗闇の谷底で暮らしてきた闇種族。
どちらの二人も、住んだ空を見るのが初めてだった。
「そういえば、予定表の奴渡してもらったんだけど、林間学校だって。」
「なにをするんだ?」
「ん~…よくわからないけど、林…だから、どこかに行くんじゃないかな?」
「こんな暑いのに、嫌なものだな。山とかは好きだけど…」
「いいところだと良いね。」
「…。」
優一は突然、目線を上に向けると立ち止まった。
「どうしたの?」
上を向くと、梅の木があった。
青い実が、たくさん実っている。
「…。」
「優一?」
優一はいきなり口を動かす。
すると、梅の木の青い実に何かが飛んでいき、プチリと実が枝から離れた。
優一はそれをキャッチした。
「ちょ、優一!勝手に取っちゃだめだよ!」
「…いや、気になってな…。」
「もう…」
優一は、それをためらいもなくかじる。
「あっ!!そんな勢いよく…」
「酸っぱい。うまいな。これ。」
「酸っぱいの好きなの?」
「果実に関しては…。うまいけど…。」
優一はかじったはずの果肉を、ペッと地面に吐いた。
「!?」
「毒がある。」
「か、かじって大丈夫だったの?」
「大量には食べてないから平気だ。それに、闇種族に少量の毒は逆に体にいいんだ。」
「そうなの?」
「ああ。変な体質だよな。」
優一は残りの実を捨てた。
「あれ、梅の実だよね?スーパーに、同じようなものが売ってたよ。」
「本当か?今度買ってみようかな?」
優一の答える言葉に笑う。
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