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煙が晴れると、影がいなくなっていた。
(逃げられたか…。)
舌打ちをする。
咳さえなければ、あのまま捕らえれていたのに、姿も見えないまま取り逃がしてしまった。
優一は急いでアパートに戻った。
「ゲホ…ゴホ…。」
咳がとまらずに出てくる。
部屋の中に入っても、相変わらず咳は出ていた。
このことを、愛はとても心配しているから、あまり出したくはないのだが…
(なんだ。息苦しい。何か焼けるような…)
一つ咳をまたすると、ようやくとまった。
「ふぅ…。」
口を押さえていた手を離す。
「!?」
手に、何かがついている。
少しべっとりとしたもの。
電気をつけて確認をする。
「…!?」
手に、黒い血がついていた。
口の下をなぞると、そこにも血がついていた。
魔法でつけられた傷ではなく、口が切れているわけでもない。
「…まさか……」
優一は服を脱ぐ。
すると、驚くことに気がついた。
「な…」
昨日、シャワーを浴びるときにはなかったものが、浮かび上がっている。
右胸のした辺りに、黒いものが浮かび上がっている。
黒く浮き上がり、内出血をしているようにも思えたが…
それは同時に、何かの文字が浮かび上がっていた。
「束縛と光を表すバイディング・ルーン。周りにヘブライ文字…」
ヘブライ文字を読むと、それは衝撃的なことだった。
優一はその場に脱力をして座り込んだ。
束縛は、魔術へ対しての束縛。
そして、それができたのは光…あの鉄槌に、体がかすったのか、その呪いを体が吸い込んでしまった。
「魔法を使えば…俺の命は焼き殺される…?」
今まで咳が出ていた状況や、場合を整理すると、それは一致した。
これから魔法を使えば、使うたびに体が中から焼かれ、やがて命を落とす。
だが、魔法が使えないということは、戦闘不能を意味している。
体術で挑む…?
そんなことは無理だ。
能力の差が違いすぎる。
「…くそ!!これじゃぁ、愛を守れない!!」
優一は床を叩いた。
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