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「わ、わたしは……ち、“調合図鑑”を完成させたい……だけよっ」
そっぽを向きながら、指をもじもじしている。可愛いと言われたのがよっぽど照れたのだろうか。
「うん、立派な夢じゃないか。それじゃ、君はどうかな?」
初めから今まで、ずーっとこの展開を眺めていた男の子に、老人は焦点を定める。いきなり眼を合わされてビクリ。緊張のあまり、悲鳴すら出せない喉。
それでも、少しづつ緊張が解れていくのは、やはりこの老人の魅力なのだろうか。苦しかった喉元が、遂に緩くなる。
「ぼ、ぼくゎっ、世界中の動物と、と、と、友達になって、会話したりして…たいっ」
「なにそれ」
赤がツッコむ。
黄色いボサボサ髪に手を置いて、良く言えました。と囁きながら、ニカッとした笑顔を向ける。見上げることもできず、少年は下を向いたまま照れていた。
「じゃあ、これ」
突然、老人が真っ黒な薄い本を三冊。一冊づつを子供たちに配り始めた。
チョークのような真っ白な字で、“神立イディア大学”とだけ書いてある。書いてあるけど、それが何なのか三人にはサッパリだ。
「何これ?」
「ウチのパンフレット。今はまだ読まなくていい。机の下かカーペットの下に挟んで、十年くらい経った時に開けてね」
「ふーん……」
女の子が何食わぬ顔で読み始める。広がる難しい漢字、大きい数字と小さい数字がいっぱい。すぐに読むのを諦めた。
「だから読まなくていいって言ったのに」
再び忠告をする。が、まるで推理小説に没頭したかのように、子供たちはパンフレットの解読を試み始めたのだ。
やれやれ、まだ渡さなきゃよかった。と老人は溜め息をつきながら、パンフレットの虫になった子供たちの顔を、眼を、眺める。
そして──
「なあオッサン、ここにある“発明師”ってさ──」
「あれ? いない……」
「……変な人だったね。……面白かったけど」
時は夕暮れ、カラスが鳴く。
三人は土まみれの汚れた手を繋いで、公園を出て行ったとさ。
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