3人が本棚に入れています
本棚に追加
男は人格を乗っ取る術を開発していたのだ。
そして毎日、同じバスの前の席に乗る、会社の同僚の「私」で実行したのだ。
ゆえに人格の消えた男の身体は死に、
男の人格は「私」へと乗り移り、
私へとすり代わった。
ここで男は疑ったのだ、
まさか乗っ取ることができるはずがない、と。
しかし男は正反対の「私」に乗り移った。
自分で気づくことなく。
自分は自分で有りつづける他にないと思っていたのだ。
やはり元の人間に与えられた自我に勝てず、
男の人格は「私」の中で目を閉じたのだ。
これから先、男は「私」の人格に現れることはない。
人格が目を閉じた時、
人間は完全に死ぬ。
霊にすらなれずに。
閉眼した世界は、何もなく、さぞ暗いことだろう。
最初のコメントを投稿しよう!