ショモツ

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  風に揺らぐ茶色の絹糸みたいな髪をそうっと掻き上げて山南は目を丸くしながら自分をじっと見ている沖田にそっと微笑む。 悲哀も憎悪も混じってはいないただ優しいだけのその微笑みはしかし何処か少しぎこちなく。 決して無理矢理ではないのだが何処か無理矢理に似ている彼の笑みを見て沖田もまた少しだけ無理に繕った笑みを浮かべた。 曖昧に流れる空気が二人の溝を埋めるなんてことはなく暗闇の中で確実に時間を進めていく。 死ぬと言った山南とそれが正しければ殺されるであろう芹沢のことを考え沖田は行き場のない衝動と焦燥感に胸を焦がした。 そんな沖田の苛立つ心を治めるためか梅を見つめる山南はまた茶色の髪を掻き上げ口を開く。 「…芹沢局長、と仲が良かった貴方ならあの人の素行の酷さは流石にご存知でしょうけれど」 「だけど!だけど、それは…」 「大和屋焼き打ち、無罪である力士を暴行、殺傷…その他にも起こした問題は山ほど。だけどなんて言葉では済まされない。沖田くん、わかりますよね?」 「っ…だけど、芹沢局長は…」 笑顔のまま言う山南に反論出来ないのか沖田は開いた唇を強く噛み締めながら床を見つめた。 それに気付いたのか、山南は今まで浮かべていた笑みを薄くし言い過ぎたかと横で俯く沖田の表情を少し窺うように見遣る。 泣きそうになっていると思って見た沖田の表情は山南の予想に反して意外にも冷静なままで。 しかし僅かながらに揺らめいた沖田の瞳が焦燥と困惑を浮かべ苦笑している山南を見つめた。  
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