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「何で言うんだよ!」
「ふふ、いいじゃん。」
「……俺が言おうと思ったの!」
俺の決意を返せ、と言い掛けたところで、梨恵が俺を抱き締めた。
「浩平には傷つけられたから、これくらいの仕返し、いいでしょ?」
「何だ、それ。」
悪態をついたが、この抱擁が思いの外嬉しくて、怒ることは出来なかった。
「それで?」
す、と体が離れ、梨恵は俺の目を離さないままそう言う。
「何が?」
「好きだから、どうしたいの?」
クスクスと小さく笑う梨恵が、悪女に見えた瞬間。
「……だから!俺と……付き合っふぇ!」
まだ話している途中で、梨恵が俺の口を塞いだ。
首を引いてそれを振りほどく。
「何だよ!」
「それは帰って聞かせて。」
肩透かしをくらった気分だ。
もしかすると、俺はこうやってからかわれ続けるのだろうか?
「……俺、このまま一生、梨恵には適わない気がするよ。」
梨恵の望み通りに俺の家へと車を走らせながら、溜め息混じりに言うと、大きく笑われた。
「だから!笑うなっつの!」
「これは嬉しい笑い。」
「何がだよ。」
「一生、私といてくれるってこと?」
やっぱり、一生適わないだろう。
「それも帰って話すよ。」
呆れつつ言って、ふと隣を見る。
恥ずかしそうな、嬉しそうな顔の梨恵と目が合った。
「……まあ、いいか。」
そう、いいさ。
どんな流れであれ、隣にいられるのだから。
見慣れた家までの道を、梨恵は終始幸せそうに笑って
幸せの形が、見えた気がした。
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