雪の果て

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「お話?」 誠士郎が寝ぼけ眼のまま斎藤を見上げると 「あぁ、誠士郎にはまだ難しいかもしれんが」 「誠、大丈夫だもん」 「そうか・・・ならば今から俺が話す事を良く覚えておけ」 斎藤が真剣な声音でそう告げると、誠士郎も斎藤の目を見て力強く頷き布団から出て座り直した。 誠士郎が身なりを整え、斎藤を真っ直ぐに見据えると斎藤が小さく頷き 「前に、お前の父は沖田総司だと話したこと覚えているか。お前はその沖田とハルの間に出来た子だ。 俺はお前の父と、ハルとお前の二人を守り幸せにするという約束を交わした。 今までは同居人としてお前たちを守ってきた。だが・・・これからは本当の家族になろうと思う」 斎藤の言葉をじっと聞いていた誠士郎が首をかしげ 「誠と、ととは家族でしょ」 と問うと斎藤が頷き 「あぁ、そうだな。だがそれは俺がお前の『とと』と言う父親まがいの物になるということだ。これからは本当の家族に・・・つまり俺は・・・お前の『父』になる」 と誠士郎に答える。 「え?でも・・・誠の『父上』は沖田総司だけって・・・ととが言ったんだよ」 誠士郎が思わず俯くと、ハルが誠士郎の手をそっと取り 「総司はあなたの父上よ?それはこれからもずっと変わらないわ。だけど、これからは斎藤さんも父上になるの。『とと』というあやふやなものではなく・・・誠士郎の『父上』に。誠士郎はどう思う?」 と優しく問うと誠士郎が、がばっと顔を上げて 「誠、父なしっこじゃなくなるの? 『父上』に肩車してもらったって言っていいの?『ととに』じゃなくていいの? あ、あれ??もしかして誠には父上が二人も出来るの?」 と目を輝かせて斎藤に問う。少し驚いた斎藤が口の端を少しあげ誠士郎に頷いてみせると 「わ・・・わぁ!誠、父上が二人も!みんな一人なのに誠は二人だよ!すごい!すごいや!」 と言うと立ち上がり嬉しそうに狭い家の中を走り回った。
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