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時は過ぎ、ハルがこの神社に来て数ヶ月が過ぎようとしていた。
神社の者たちはハルを異人扱いすることも記憶が無いことを詮索することもなく、ここではハルは快適に過ごせることが出来ていた。
…そう、『ここだけ』では。
依然、一歩外を出ると好奇な視線や陰口が付きまとい、ハルを悩ませていたがそれでも神主は
「変な噂話をしている者達も、お前に一度でも接すればお前のことを解ってくれるはずだ」
と皆に受け入れてもらおうと、ハルをよく町へ使いに出していた。
ハルも嫌々ながらも神社の女中と町へ使いに出ていたのだが、町へ頻繁に通ううちに八百屋や魚屋で『ハルちゃん』『おハル』などと呼ばれるようになり、神主の言う通りに町の人達がハルを受け入れはじめ町へ出るのが楽しみになっていた。
そんなある日…事件は起きる。
いつも同行する女中が他の使いで不在だった為、神主が止めるのも聞かずにハルは置き手紙を残してこっそりと一人で町へ出てしまったのだ。
通い慣れた道を鼻歌まじりに歩いた時
「へぇ…お前さんかぃ?神社に居ついている異人もどきってのは」
と突然、風体の悪い男たちに囲まれた。
身の危険を感じ逃げようとするハルの腕を、男のごつごつした手が掴み
「おいおい、どこに行くんだい」
と耳障りな声でハルに問いかけた。
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