雪の果て

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それを嬉しそうに眺めるハルに 「ハル、あれで良かったのだろうか。誠士郎は「良かったんですよ、あの顔見てください。本当に嬉しそう」 斎藤が心配そうに問うがハルが即座に答えると、斎藤が安堵したようにはしゃぐ誠士郎を見つめて微笑み 「誠士郎」 斎藤が優しいが凛とした声で誠士郎を呼ぶと 「ここに」 と自分の前を指差す。首をかしげた誠士郎が斎藤の前に腰を下ろすと 「今から俺の事を『とと』ではなく『父上』と呼べ。それから母のことも『母上』と呼ぶのだ、いいか」 斎藤が真剣な声音で誠士郎に告げると、一瞬目を丸くした誠士郎だが 「はい、父上」 と斎藤を真っ直ぐに見据え答えた。その眼差しにまた総司の面影が見えると、ハルが目を潤ませるが 「誠士郎、俺はお前を一人前の武士に育て上げる。それはお前のもう一人の父親である沖田との約束だ。 だから・・・俺は幼いお前にも手加減はせぬ。人の何倍も厳しく何倍もきつい想いをする事になる。 もし、お前が武士になるつもりが無いというのなら、今この場でそう言え。例え沖田との約束でもその気のない奴に俺は無理強いするつもりは無い」 斎藤の厳しい言葉にハルが驚き 「一さん!誠士郎はまだ二歳ですよ?そんな武士とか何とかまだ理解できるわけ「できぬと思うか」 斎藤が鋭い視線をハルに送る。 「少し・・・黙っていてくれ。これは男と男の・・・いや、親子の決め事だ」 斎藤が静かにそう告げると、ハルが驚くが誠士郎に目をやり少し離れたところに腰を下ろして二人の成り行きを見守った。 一方の誠士郎は、ハルと斎藤が話している最中も決して斎藤から目を逸らすことなく真っ直ぐに見据えており、そして 「父上、誠を武士にしてください!!」 と言うと手をついて頭を下げた。
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