目覚め

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そして神主が少女を気遣うように微笑むと 「では、娘さん。名は…何というのかな?」 再び静かに問うが 「あの・・・ごめんなさい。本当に何も・・・わからないんです。気づいたら・・・ここにいて」 自分のことが何一つわからない事に愕然とする少女が、震える手をぎゅっと握り泣くのを堪える。 「…娘さん」 神主の穏やかな声音に少女が顔を上げて神主の顔を見ると、神主も少女の目をじぃっと見つめ 「うむ」 と嘘偽りを言っていない目に頷くと、にこりと微笑んで見せ 「さて・・・どうするかね。家も名前もわからないとなると…」 と最善策がないか思案する。 「あの…色々ご迷惑をおかけしてすみませんでした。ちょっとこの辺を歩いてみます。何か思い出せるかもしれないし」 少女はこれ以上神主に迷惑をかけてはならないと思い、早くこの場から離れようと歩いてみる事を提案し 「それもいいかもしれんな。もし思い出せなかったら、またここに戻ってくればよい」 と神主が頷くと、少女は頭を下げて神社の外を少し歩いてみるが 「・・・」 周囲からはやはり冷たい好奇の視線を浴びると、足がすくみついには俯いて立ち止まってしまった。 …そして 記憶はないが自分がいた所はここではなく、違うところ・・・もしかしたら、土方と言う男が言っていた「異国」なのではないかと思いさえ浮かび、着ている物を指摘された時点でなんとなく感じていた事が・・・確信に変わった。 自分はここの人間ではない・・・と。 しかしわかったのはその位で歩いても何も思い出せず、好奇の視線や陰口に耐えられず逃げるように再び神社へ駆け込んだ。
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