自傷の噺

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カッターナイフを左手首にかざしてから、もう既に30分は経過していた。 私は、ゆっくりとした動作で左手首にカッターナイフの刃を埋めた。最初はただ肌が凹んだだけだったが、右手をクイと動かすと、プツリと血管が切れた。まるで、パンパンに膨れた風船のように溜まった鬱憤がカッターナイフによって破裂し、うさが血液に変換されて、溢れ出す。 激痛。 血の滴る左手首から耐えようもない激痛が全身を駆け抜けた。 「あ」 思わず、声が漏れてしまう。その声が引金となって更なる激痛を呼ぶ。それはとてつもなく痛いが、同時に快感でもあった。 私は今、痛みを感じている。その痛みは私が自ら生み出した痛みであり、悶え、苦しみ、悶絶する程の快感だった。 叫びたい。 腹の底から。 私は生きているんだって、叫びたかった。 嗚呼…。 息がどんどん荒くなる。頭が真っ白になって、全てのしがらみが無いものとなって、ただ、気持ちいいという感情しか残らなかった。 私は左手首に押し込むカッターナイフの動きを止め、カッターナイフを引き抜いた。 血が更に溢れた。 私は血がとりとめもなく溢れ出てくる左手首の傷口を舌で舐め回す。ざらついているのに、ねっとりとした唾液が絡み付いて湿った感触がする舌で、丹念に、執拗に傷を舐める。
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