自傷の噺

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血が少しずつ目立たなくなると、今度は私の唾液と少量の血が混ざってねばついた液体が私の左腕を蹂躙し、絡みついて肘の間接から滴り落ちる。 息が、荒い。 極度に興奮して肩で息をしていた。 腕に絡みついた唾液も舐めきると、私は疲れきってそのままベッドに仰向けに倒れてしまった。 胸の無い胸が私の荒い呼吸に合わせて上下する。私はカッターナイフを右手から離し、そのままベッドの上に置く。そして、そのまま右手の甲を額の上に乗せて呼吸が整うのを待つ。 漸く呼吸が整うと、私はゴロンとうつ伏せになって、左手首に浮かんだ傷痕をそっと指でなぞる。まだ傷口は塞がっておらず、血が少し滲んでいたが私はその傷を見て、ついフフンと笑みが洩れた。 明日になれば、傷口は完全に塞がるだろう。そして、またしばらく日が経つと、今度は手首に白いみみず腫がくっきりと浮かぶのだろう。 それが、何故か嬉しかった。 二度と消えない傷。一生付いて拭えない傷。見つかって蔑まれるかもしれない。両親は…泣くかもしれない。スクールカウンセラーを紹介されるかもしれない。 でも、いいんだ。 それでもいいと思えた。 それでも、生きているんだっていう実感をまがいなりにも、例え偽りの虚構だとしても、感じる事ができたんだから。 だから、これでいい。 この左手首の傷を眺めるたびに、また、生きていくための気力を養える気がしたから。
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