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私が心の準備をする暇もなく、おじさんは顔の上のガーゼを捲った。
一番みたくなかった顔がそこにある。
間違いなくおばあちゃんだ。
「綺麗なお顔ですね、まるで眠ってるみたい…ねっ?律ちゃん」
あんなに嫌っていた相手でも、やはり死んでしまうと悲しくないわけではないみたいで、母はいつもより疲れた顔をしている。
不思議だけれど、実際おばあちゃんの亡骸を見ても涙が再び溢れることはなかった。
目の当たりにしているのに実感が湧かないのだ。
お通夜で親戚や近所の人がおばあちゃんの遺影を眺めながら思い出話をしている時も、喪主であるおじさんが挨拶をしている時も、お葬式でお坊さんがお経を読んでいる最中も、全く実感が持てずにいた。
けれど、その瞬間は突如としてやってきた。
火葬場で棺の中に皆でお花と思い出の品を詰め、棺の四つ角を釘で打ちいよいよ最後のお別れの時。
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