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アイドルデビューという、寝耳に水の話が降ってきた事が、全ての転機だった。
にまにまと笑うのは、芸能界の父と慕う大御所。
まあ、「大御所」かどうかなど、彼には関係無かった。
下心の全くないストレートな彼を、大御所も可愛がっていた。
そして、かの大御所は、彼の想い人にも、多大な愛情を示していた。
それは彼もわかっていた。
想い人が大御所に、無意識に懐いている好意にも。
…色恋という意味での好意だという事も。
元々、歌が好きな想い人は、二つ返事で了承した。
アイドルデビューにあたり、もう一人の青年が選ばれていた。
この頃、レギュラー出演の番組を持っていても、大きな仕事が無かった各人の所属事務所は、露出が増える事は何でもオッケーと、アイドル路線を歓迎していた。
おずおずと「自信がない」と、手を挙げる青年に、一瞬嫌な目線を送ってしまった自分を叱咤する。
青年が憎いのではない。
青年は、彼が唯一認めたライバル。
想い人に、いかにも可愛い姿を「素」で見せているのが、羨ましいのだ。
共通しているのは、二人は乗り気ではない事。
大袈裟にガッカリした大御所に、想い人は慌てているようだった。
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