64人が本棚に入れています
本棚に追加
ゆったりとした椅子
さりげなく置かれた観葉植物
中庭が見える大きな窓
目の前の青年が居なければ、ここがどこだか解らなくなる。
「どうですか?」
そう切り出すのはいつもの事。
「…わかりません…」
そう応えるのはシュウ。
「変わった事はありますか?」
「…怖くて眠れないって事が無くなりました…」
「それだけでも進歩ですよ」
「…あの…」
シュウは顔を上げた。
「はい?」
青年は、優しい笑みを浮かべて首を傾げる。
「今日は…先生に…訊きたい事があるんです」
「なんでしょう?」
穏やかな風
柔らかな光
シュウは、躊躇った。
青年…彼は医師である。
ペンを滑らせ、書類のようなものに何かを書き込み始めた。
そうやって、シュウのタイミングを待っているようだ…
中庭に小鳥が飛んできて、小さな囀りを奏でている。
シュウは、覚悟を決めて
口を開いた。
「先生…、『緋野シュウ』って、誰ですか?」
青年医師の手から、
ペンが落ちて、
カタ…ンと、音が響いた。
最初のコメントを投稿しよう!