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「あなたは、真実を受け入れるべきかもしれない…」
和泉が口に出した内容に、医師は首を振って止めた。
「和泉。それはお前の個人的な事情だ。私は医師として、認められない」
医師は微笑みを浮かべてシュウに向き合った。
「…事実、というのは、創れてしまいます。でも…皆が言ってしてる事が、全て真実とは限らない。それだけは、あなた自身が決める事です」
今度はシュウが、医師の目を見つめた。
「大丈夫ですよ。あなたは、確かに『緋野シュウ』です」
シュウは、ハッと顔を上げた。
「それは『真実』ですか?」
医師は和泉とシュウ、応接コーナーに誘導した。
もう今日の診療は終わり、と、暗に示唆している。
「それは、『事実』です」
医師の淹れた紅茶の香りが漂う。これは、多分、ダージリンの香り。
「もう止めましょうね。疲れたでしょ。お茶、どうぞ。和泉も、少しシュウさんと話すといいよ」
そう振られて、和泉は少し唇を尖らせたものの、シュウの前に座った。
「和泉君…ごめんね」
「いいえ。…同じヒトを好きになったよしみです。付き合いますよ、…最後まで」
「いーずーみー!」
医師が和泉の頭をぺちんっと叩く。
その光景に、自分とシンを重ねて、シュウは知らず知らずのうちに、笑っていた。
『緋野シュウ』として。
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