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ヴ、ヴ、ヴ…
巨きな獣の唸り声の様な重低音と共に足場が揺れる。
船が沈んでいるのだ。
小型潜水艇“ネレイド”。
「彼」の駆る肢であり、シイナ達の住処である。
細い細い、板張りの通路。
最奥の扉を少女は開いた。
「ただいま、ユタカ」
船の要とも言える操縦室。その中央に据えられた椅子に座る人物が、振り向く。
「ああ、戻ったな」
先程と同じくそっけない言葉を返した青年━━年の頃だけで言えば少年であろうが━━の名は、ユタカ。
少なくはない肩書きを背負う、ネレイドの主だ。
「水気はしっかり取ったな? 気を抜くと後々に差し支える」
「うん、大丈夫。約束だもの。…それより」
言葉を切り、シイナは何とも複雑そうな顔を部屋の隅に向けた。
ユタカはそれを目線で追う事もなく、その場所を親指で示して。
「拾い物だ」
そう、そこに蹲る人間の子供を言い表した。
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