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部屋に響いていた嗚咽の声が、やがて小さな寝息に変わる。
疲れ果てて眠りに落ちたシオンの身体を寝台に横たえたシイナは、虚空を見つめてどこか寂しそうに呟いた。
「…人間は、どうしてセンソウをするのかなぁ。仲間同士で傷付け合ったって、何も楽しくなんかないのに」
『━━それが人間の業だからな』
静かに応えた声は、彼女の耳元で言葉を次ぐ。
『守りたい物の為、手にしたい物の為に、人間は武器を取る。しかし武器を奮い、前に進む毎に、周りが見えなくなる。大事なものを取りこぼす。…それが、人の性なんだ』
どことなく重いものを湛えたユタカの台詞に、シイナは目を伏せ、けれども改めて強い眼差しで正面を見据えた。
「…でも、手を差し伸べてくれる人間もいる」
『…!』
「私は、知ってるよ。ユタカ」
どうしようもなく不器用で、けれど聡く優しい、そんな人間の事を。
シオンの亜麻色の髪に、少女の指がふわりと滑る。
「シオンにも、いつかそんな誰かが現れるかな?」
『…だと、良いな』
海は、すでに夜半を迎えようとしていた。
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