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海が燃えている。
否、燃えているのは船だ。数十隻もの艦隊が、天をも焦がす勢いで猛火と黒煙とを噴き上げている。
未明の空を映す海は漆黒。波の合間を縫う様に漂う、誰の物とも知れない血は真紅。
赤と黒に染め抜かれた世界。
地獄と見紛う光景の只中に、二つきりの白が浮かんでいた。
白銀の船の甲板にひざまづいた、一人の青年が目前の“白”に問いかける。
「生きたいか?」
“白”が力無く彼を見上げた。
「このままここで力尽きるか、己の『かたち』を変えてでも生に喰らい付くか。お前が、選べ」
“白”の眼差しが、青年の真剣な顔をかちりと捉える。
両者が共有しうる言語は無い。しかし、その瞬間、彼等の魂は━━意志は確かに繋がった。
やや置いて、青年は小さく頷く。
「━━ああ、解った」
まるで、その言葉が合図であったかの様に。
刹那、東の果てを黎明の光が染めあげた。
赤と黒とをかき消すかの如く拡がる茜色に照らしだされた“白”の顔は、心なしか微笑んでいる様にも見えた。
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