秘密の傍観者

3/5
前へ
/27ページ
次へ
「聞いてるん?ねぇねぇねぇ」 「聞いてますんで…俺の中にいる勇敢で愛すべき人間を汚さないで下さい」 カウンターの向こうで俺の入れたカクテルをグビグビと味わうことなく飲み込む男性 どうやら声優さんらしい 名前は確か…鈴村さん 俺が大好きなゲームキャラの声の人 なのだが 理想と現実は違うもので 実際見るとただのおっさ… いやはや失敬 ただの男性だ 3ヶ月程前にふらりと来店して以来立派な常連だ 話のネタは相変わらずの 「ひどいんや俺の恋人は今日も俺をほっといて奥さんとこや!」 「はいはい一杯につき聞いてますよ…その台詞」 ついでに危ないことも溢れてますよ 一応本人は隠てるようだが この方不倫してるようです しかも相手は男性 禁断のダブルセット 俺には真似出来ないわ 「もう俺のことはどうでもええんやろかね」 頬杖をつきながら溜め息を吐く彼には哀愁というか色気が漂っていて 女性に人気なのかわかる気がした 「まぁそう悩まずに」 カクテルを置く手に指が絡まる 俺を映すのは潤んだ瞳 「俺…寂しいんよ」 いつもより低温な甘い声 「今夜だけ俺を慰めてくれへんか?」 握る手に力が籠る また始まったよこれ 俺は溜め息をつきながら手を離す 「悪いけど俺は芸人バリに弾けてるおっさん趣味じゃないんで」 「手厳し!でも合格!さすが俺の弟子!」 「誰が弟子ですか?」 今のは彼曰く「大喜利」 口説かれた時に面白く断ろうという課題 ただのおふざけだ 「まっ惚れたもん負けですね」 新しいカクテルを出しながら言うと 「あほ!惚れたのはあっちや」 相変わらずの返事が返って来る まぁこれも日常茶飯事 さてここで遊んでみるか 「どこがいいんですか?」 「ん~?」 「ただのエロい声のおっさんですよ?」 ぐはぁ その瞬間豪勢に人の作ったカクテル吐き出しやがった 「生きてますか?」 「なんとか…って何で知っとんねん!?」 隠してるつもりだったのかい 彼からの着信全部彼の声にしといて 見る度ニヤニヤしといて あほだこの人 「勘です」 「勘でわかるんかい…」 グラスに残ったカクテルを飲むと 「全部に決まっとるやろ?」 と幸せそうに言う どっかで聞いたなそれ 「似た者同士だな…」 「なんか言うたか?」 「いえいえ」 「まぁええわ会計頼むわ」 「はーい」
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加