第一章

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「お疲れ様です」 そう、誰かが言った声で我にかえった。 「お疲れ様です」 一人一人に頭を下げ、ゆっくりとした足取りでこちらまでやってきて、先程と同じ言葉を口にして頭を下げてきた。 「お疲れ様です」 微笑みながら頭を下げ、歩いて行く背中を見送った。 溜め息をついて、右手で額を抑えた。 「シオンさん大丈夫ですか?」 手を下ろして声のする方を見れば、撮影に使ったセットを片付けているスタッフが目についた。 「少し抜けます」 セットを片付けているスタッフ達にそう言うと、 「わかりました」 その返事を聞いて一人のスタッフがこちらに駆け寄って来た。 もしこれが新人だったら許されない事だろう。 経験があるベテランだからこそ出来る事だ。 「大丈夫ですか?」 お世辞でも若いと言えない、目の前にいる女性は、また、大丈夫ですか? と繰り返した。 「あぁ、大丈夫だよ。少しぼーっとしてて……」 苦笑して、小さく笑うと、疲れてるのかもしれませんね、最近忙しそうでしたから、と続けて言った。
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